雨実 和兎の小説創作奮闘ブログ

エッセイ・小説・詩・ポエム

⑩<父の審査>

<父の審査>

「すみません、私のせいで騒ぎになってしまって」

 

そう言って申し訳なさそうに近寄って来た女性職員は、冒険者達を取り纏め場所を用意してくれた。

 

準備された別室は応接室のようで、十人位が入れそうな広さに机とソファーが向かい合って並んでいる。

エミリと並んでソファーに腰掛け、廊下に並んでいる冒険者を呼び掛ける。

 

「では次の方どうぞ」

 

まるで面接のような呼び掛けだが気にしない、こっちは娘の将来が掛かっているから真剣なのである。

 

「チワッス、ヨロシクッス」

 

「はい、次の方どうぞ」

 

ノリが軽い、こんな奴は要らん。

 

「まだ何も話してねーッス」

 

「はい、残念さーん」

 

ドアを開け入って来た次の冒険者が、嫌味っぽく落ちた冒険者の肩に手を置く。

 

「はい、次の方どうぞ」

 

嫌味っぽいのが気にいらない。

 

「えっ?俺も、まだ挨拶もしてね-だろ」

 

不満そうにドアを閉め、次の冒険者も出ていく。

 

「ちょりーっす」

 

「はい、次の方どうぞ」

 

こんな調子で次々に切り落としていくと、エミリが不安そうに訊ねる。

 

「トウちゃん大丈夫?本当にこんな感じで良いのかな」

 

「大丈夫だ、何も問題無い」

 

エミリの心配を押し切り、面接を続けていく。

 

「失礼します」

 

ノックを二回して、ドアを開けた黒髪で正統派の好青年はソファーに腰掛ける。

好印象である。

此れは悪くないかもしれない。

 

「其れでは年齢と名前を教えて下さい」

 

「22歳・阪口 ケータです」

 

「ご趣味は?」

 

「特に無いですね」

 

凡そ冒険者とは関係無い質問だから、不思議そうな顔をしているが関係ない。

こっちは真剣なのである。

 

「休日は何をして過ごしていますか?」

 

「主にゲームですね」

 

アウトである。

やはり見た目だけでは信用ならない。

丁寧に断り、次を探す。

こんな事を繰り返し、二時間が経った。

 

「はい、次の方どうぞ」

 

返事も無く、室内は静まり返る。

結果、誰も残らなかったようだ。

 

「トウちゃん~、誰も居なくなっちゃったよ・・・・・・」

 

「大丈夫だ、何も問題無い」

 

そう言ったものの、思っていたより難しいものである。

室内から出てみると、冒険者達からの冷たい視線が刺さる。

なかなか居心地が悪くなったものだ。

 

其れにエミリも気付いたのか、二人で静かにギルドから出て行った。

 

「も~、トウちゃんのせいだからね。変な事ばかり聞いて」

 

膨れっ面しているエミリも可愛いが、取り敢えず機嫌を直さなければ。

 

「気分直しに町の探索でもするか」

 

エミリは大きく頷き、笑顔を返す。

どうやら機嫌直すのには成功したらしい。

 

小物雑貨屋や武器屋に入って店内を観て周り、エミリはファンタジー映画みたいと笑いはしゃいでいる。

 

「腹が減ったな、飯でも食うか」ゲームの電脳世界内で腹が減るというのも不思議な話しだが、科学の進化は凄まじいからな。

小綺麗な料理店に入り席に座ると、エミリはお金の心配をしていた。

 

大丈夫だと言い、詳しい説明はしていないが金はかなり持っている。

エミリが生活していく為に、多めに換金しておいたのである。

 

身体が小さく量は要らないので、エミリが注文した魔獣猪のステーキを分けて貰う事にした。

其れでもかなり多いので、太っちゃうかもとエミリは心配している。

食べ過ぎると太る機能が在るのかは疑問だが、言う事は出来ないので我慢である。

 

分厚い肉は見た目よりも柔らかく、混合タレの絶妙な味付けでかなり美味い。

味覚や満腹感迄もが在る事に驚きだが、もう今の技術はそういうものだと思っていた。

 

それから宿屋を探し、宿泊の手続きと会計を済ます。

ベッドで横たわり寛いでいたエミリは、突然の異世界に疲れていたのか眠ってしまっている。

 

眠るエミリを横目に、気分は憂鬱だった。

明日も休みとはいえ現実の生活が在るので、そろそろ戻らないといけない。

 

ログアウトすればノンプレーヤー設定になるので、機械に任せ明日に備えるとしよう。

 

「ログアウト」

 

おかしいな?ログアウトを唱えれば表示されるはずの画面が出てこない。

運営がメンテナンスでもしているのか?仕方が無い。

まあ一日位なら風呂と飯抜きでも大丈夫だろう。

 

自分のせいで冒険者達に嫌われてしまったから、絶対に守らなくては。

其れにしても、幾つに為っても娘の寝顔は可愛いな。

そんな事を思いながら、ずれたエミリの布団を掛け直し自分も眠りにつく。

 

こんなに穏やかな気持ちで眠りにつくのは久しぶりだった。

こうして異世界での一日目は、静かに過ぎていき。

まさか数日後に自分達が魔王城で囚われているなんて、思ってもいなかった。

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