雨実 和兎の小説創作奮闘ブログ

エッセイ・小説・詩・ポエム

18<モンスターハウス>

モンスターハウス

引き摺っていた骸骨兵投げ飛ばしたミノタウロスは、ゆっくりと俺に近付いて来る。

どうやら人間が敵なのは、魔物の共通意識なようだ。

 

取り敢えず接近戦では勝ち目が無いので、さっき得た<粘糸>を足下に放ち足止めを試みる。

一時的に動けなくなったミノタウロスは驚いた表情をしたが、力任せに歩き始め足止め効果は期待出来ない。

 

すかさず蜘蛛にやられた<粘糸><微毒>コンボを、ミノタウロスの顔めがけて射出。

足下を見ていたミノタウロスは<粘糸><微毒>の両方を顔面にくらい。

前が見づらくなったのか、ミノタウロスは雄叫びを上げて威嚇しながら両腕を振り回している。

 

運良く毒をくらわせれたのと視力を潰したのは大きい。

此処からは時間との戦いだが、毒をくらっているのは自分も同じで勝ち確定ではなく。

どう考えても、HPの少ない俺の方が分が悪いだろう。

モンスターハウスさながら魔物達に囲まれてはいるが、一対一なのが唯一の救いだ。

 

其処で思い付いた作戦が、ミノタウロスに人壁を攻撃させて仲間割れさせる方法だ。

周りを見た感じではミノタウロスに勝てそうなのは獅子顔の獣人だけだが、少しでもミノタウロスのHPが減れば作戦成功だろう。

 

みっともなく人壁を逃げ周り、視力の弱まったミノタウロスは俺を探しながら腕を振り続ける。

其れでも微かに見えてはいるのか、ミノタウロスは確実に俺を追い詰めていく。

 

囲んでいる観客が居なければ、逃げるが勝ちなのだが。

そんな事を考えているとミノタウロスの振った腕が、熊の魔物に当たり。

反撃した熊の魔物は体当たりでミノタウロスを突き飛ばし、ミノタウロスは倒れている。

 

此れはチャンスだ。

起き上がったミノタウロスが、このまま殺り合ってくれれば生き残れるかもしれない。

そう思っていた矢先に、背後の魔物に押し出された俺はミノタウロスの真ん前に倒れてしまう。

 

マズイ。

距離を取らないと。

回避行動に移すより速く、ミノタウロスの豪腕が胸部に直撃する。

 

ぶっ飛んだ俺は観客の魔物達にぶつかり、床に倒れたまま起き上がる事が出来ない。

宴のように響く、魔物達の歓喜の歓声。

腹に穴が空いたかと思った。

衝撃で上手く呼吸も出来ない。

 

そんな状況でも、毒の効果で胸に激痛が走り続けている。

もう死にかけの俺に追い討ちを掛けるように、魔物達のミノタウロスコールが響き。

叫ぶ魔物達は。俺をステージに押し戻そうとしている。

 

もう抵抗すら出来ずステージ中央に投げ飛ばされた俺に、ミノタウロスがゆっくりと近付いて来ている。

死ぬ時に、過去の記憶が走馬灯のように走るって嘘だったな。

普通にミノタウロスしか見えねーじゃねーか。

 

おぼろ気な意識の中。

此れが夢なら死んでしまえば醒めるかなんて考えていたら、目の前に昨日見た彼女が表れる。

丸く薄い光りを纏う彼女は、もう天使にしか見えない。

 

きっと迎えが来たのだろう。

そう思っていたら彼女の回復魔法で、さっき迄の痛みが嘘のように消えて俺は全快した。

 

「大丈夫ですか」

 

優しく語り掛ける彼女にミノタウロスが殴り掛かるが、薄い光りに阻まれミノタウロスは触れる事も出来ない。

 

「君は天使なの?」

 

思わず口に出てしまった疑問に、冗談だと思ったのか彼女は笑顔を返す。

このまま時間が止まってしまえば良いのにと思える位に、彼女の笑顔は美しい。

 

まだ出逢ったばかりの、二人の会話を遮るように突然爆発音が鳴り響く。

爆発音がした方向を見ると、どうやら広場の壁が爆発して穴が空いたようだ。

 

空いた壁の穴から、勢い良く魔物達が逃げ始め。

もう骸骨兵の統制も効かず、混乱した広場は完全なモンスターハウスと化していた。

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