雨実 和兎の小説創作奮闘ブログ

エッセイ・小説・詩・ポエム

24<運命の別れ道>

<運命の別れ道>

この距離で今更逃げる事が出来る訳なんてなく、三人は覚悟を決めるしかなかった。

 

残り魔力の少ないリジョンは、支援魔法でルミニーとルドエルを強化。

 

再び身構え魔王グレンと向き合うが、魔力を開放していない状態でも魔王の威圧感は凄まじく。

斬り込む為に前に出るのも容易ではなかった。

 

「このまま睨み合ってても埒が明かないね」

 

そう言ってルミニーが飛び出そうとした時に、魔王が口を開く。

 

「そう怯えるな人間よ、我に攻撃の意思は無い。我を倒しに来たのだろうが、丁度良い。我は死にたいのだ。寧ろ殺してくれないか」

 

立ち上がった魔王は、さあ斬れとでも云わんばかりに両腕を広げ一歩前に出る。

 

「いったい何を企んでいるんだい?」

 

ルミニーは疑い深く身構えたまま訊ねる。

 

「何も企んでなぞいないぞ。其の言葉どうりの意味だ。但し我に魔法が効かぬのは、もう解っただろう。其の剣を使うが良い」

 

そう言って魔王が右手を差し出すと目の前に一本の剣が現れ、剣は宙に浮いたままルミニーの前に移動した。

 

「此れは・・・・・・、デーモンバスターだぞ」

 

隣に並ぶルドエルが、思わず驚きの声を上げる。

其れも仕方ない事だと云える。

何故ならデーモンバスターは武器屋で眺める事はあっても、自分達B級冒険者に買える様な低額な武器ではなく。

A級の冒険者でも、持っている者は限られている様な代物だからだ。

 

「随分準備が良いんだね・・・・・・」

 

ギャンブル癖のせいで、稼ぎの悪いルミニーの剣は決して高価な物ではない。

だが苦楽を共にした仲間と同様に信用しているし、手入れも欠かした事はない。

 

「まるでギャンブルだね」

 

魔王との実力差から考えれば有り得ないのかもしれないが、呪いの武器が存在するのはルミニーも知っているので罠の可能性もなくはない。

だが、ルミニーが手に取り選んだのはデーモンバスターだった。

 

「じゃあ遠慮なくいかせてもらうよ」

 

剣を手に取った勢いのまま駆け出し、ルミニーは魔王を袈裟斬り。

魔王は宣言通り抵抗もなく。

 

「其れで良い・・・・・・」と呟き、その場に倒れた。

 

リジョンとルドエルの二人は呆気に取られていたが、ルミニーは振り返り。

 

「この剣売ったら幾らになるかな・・・・・・」

 

なんて笑顔で、すでにギャンブル資金の算段を始めている。

 

「駄目に決まってるでしょ」

「駄目に決まってるだろ」

 

ルミニーが金を使い潰すのが目に見えている、呆れた二人の声が揃う。

三人は笑い合っていたが、状況は予断を許さない。

何故ならリジョンの索敵魔法に検知が有り。

 

「強力な個体が二体、急速に近付いて来ています」

 

リジョンが慌てて告げる。

もうリジョンの魔力が切れる頃なのは、経験上二人にも解っていた。

そして其れがチームの命運を握っている事も。

 

「ここらが潮時だね、撤退するよ」

 

捜索を諦めるのは苦渋の決断だが、ルミニーの判断は冷静で的確だった。

 

このまま闘っていれば強力な二体を倒したとしても、チームは間違いなく全滅していただろう。

 

三人は窓を開けベランダに出ると、リジョンの土魔法で柔らかくした地面に飛び下り駆けて行く。

 

予想通りに骸骨兵が動かなくなっていたので、脱出は難なく成功した。

だが近付いて来ていた者の中に、救出すべき二人が居たとは思いもしていなかった。

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