25<なんちゃって魔王>
<なんちゃって魔王>
ものすごい勢いの足音が近付いて来ている、もう逃げる事も出来なくなってしまった。
「まあ、お前は玉座にでも座っていろ。オロオロしていると疑われるぞ」
落ち込む俺を意識内の元魔王がたしなめる。
どんな状態なんだコレは、授業参観のお父さんか。
諦めた俺は云われたとおりに座り、配下とやらを待つ。
「グレン樣、御無事でしたか」
目の前で跪く、駆け付けた配下を見て椅子から飛び上がりかけた。
見間違い様もない、同室獣人の獅子である。
「ああ、問題無い」
其れっぽい答えで誤魔化すと、獣人は一歩下がり。
「当然です、グレン樣を倒すのは俺ですから」と不吉な言葉を吐く。
様子を見る限りでは気付いてなさそうだが、問題が増えているような気がする。
其れと後ろに並んでいるのは一緒に逃げていた彼女と鳥、ゴブリンと魔族だ。
取り敢えず彼女が無事だった事を喜びたいが、今は抑え黙って様子見だ。
何せククク野郎の狙いが解らない。
自分の魔法で俺を此所に飛ばしたんだから、おおよそ俺の居場所は解っているだろう。
其れに俺の能力はバレてそうだから、今の骸骨魔王姿である俺を疑われてもおかしくはない。
そんな事を考えているとククク野郎が一歩前に出て頭を下げる。
「お初御目に掛かります魔王樣、私はウスロスと申す者ですが、是非私めも配下に加えて頂けないでしょうか」
頭を下げる前の顔が、ニヤついている様に見えたのは気のせいだろうか。
当然配下どころか友達にだってしたくないし、出来るだけ遠くに行ってほしい位だ。
だが断ればコイツは何をしでかすか解らない。
其れはさっきの魔法で経験済みだから間違いない。
「弱いし仲間は多い方が良いのじゃないか、どうするのだ?」
急かす本物の魔王の声が、直接頭に聞こえてくる。
弱いしは、事実だが余計だな。
出来るだけ魔王らしく、この場を切り抜ける為に思案を巡らし閃いた。
「良かろう、今此所に居る者全て我の配下と成るが良い」
完璧だ。
ククク野郎は要らないが、此れなら断られなければ彼女の事も仲間に出来るかもしれない。
「有り難き幸せ。光栄でございます」
頭を下げるウスロスはやはりクククと笑っている様に見えるが、其れが喜んでいるからとは思えない。
同様にゴブリンも宜しくお願いしますと頭を下げるが、見るからに敬意が違う。
問題は困惑して周りを見ている彼女だが、意外にも肩に乗っていた鳥が口を開いた。
「配下の件、仲間というなら引き受けましょう」
彼女は驚いた表情で鳥を見直しているが、鳥は彼女と視線を合わさずに頭を下げている。
「仲間で構わん、して名前はなんと言うのだ」
「トウとエミリです」
俺の質問には全てトウが答え、エミリは口を開けたままの状態になっている。
「そうか、各々空いている部屋を使い休むが良い」
取り敢えずボロが出る前に話しを終わらし、全員を部屋から追い出す。
成功だ。
何とか魔王を演じ切ったぞ。
配下が退室すると同時に頭に機械的な声が響く。
職種・囚人時々拳闘士から[職種・なんちゃって魔王]に変わりました。
職種に依り[骸骨兵使役][魔王っぽい覇気]を取得しました。
職種に依りって、そんなシステムが有ったのか。
其れに魔王って職種なのか?。
まぁ良い役得だ。
魔王っぽいって、如何にもなんちゃって魔王なスキルだな。
だが骸骨兵使役の方は使い勝手が良さそうだ。
ステータスオープンを唱え、確認してみる。
<骸骨兵使役>
自身MP使用にて骸骨兵を使役する事が出来る。
<魔王っぽい覇気>
自身MP使用にて魔王っぽい覇気を出す事が出来る。
「良かったではないか」
他人事な魔王の声が、直接頭に聞こえてくる。
こうして俺はLVたった2という異世界最弱の、なんちゃって魔王になったのだった。