雨実 和兎の小説創作奮闘ブログ

エッセイ・小説・詩・ポエム

42<理解>

42<理解>

何が起きたのか理解が追い付かない。

 

紅い蟻が娘のエミリを攻撃しようとしたのを、魔王が前に立ち助けようとしたのか。

 

紅い蟻も魔物だからAランク以下ならエミリに触れる事は出来ないはずだが、知らない魔王にとっては守るべき配下なのか。

 

そんな魔王も胸を貫かれ倒れたままで、連れていた骸骨兵も崩れ身動き一つしない。

 

まさか死んでしまったのか。

魔王なのに、たった一撃で。

 

そんな事を考えている間にも、魔王が倒れたからか怒り狂ったガオンが紅い蟻に猛攻を始め。

 

迫る紅い蟻をガオンが突き飛ばしたので現時点では距離は在るが、再び襲ってくるのは眼に見えている。

 

響くガオンの咆哮と斬激が大地を揺らす。

 

其れでもスピードは紅い蟻が勝っているようで、ガオンの連激に依る勢いで戦いは互角を保っている様に見える。

 

だが何時までも大斧を振り続けられる訳も無いので、ガオンのスタミナが切れる前に魔王を復活するか決めなくてはいけない。

 

一撃で倒れた魔王を復活させる意味が在るのか、悩ましい所である。

 

自分も魔王の配下になった事で攻撃的スキルを手に入れてはいるが、使った事が無いから紅い蟻に効くかは解らない。

 

其れにエミリも魔物だから触れられないとは限らない、紅い蟻のランクが解らないのだから。

 

だが余り考えている暇も無い。

 

紅い蟻が一匹だけとは限らないし、震えるゴブリンに戦闘能力を期待出来ないのだから仲間は多い方が良いだろう。

 

不死鳥の涙は一日一回誰でも蘇らせる事が出来るらしいが、まだ使った事が無いから半信半疑ではある。

 

せめて不発で終わらない事を祈るしかない。

 

動揺して立ち尽くすエミリの肩から下りて、倒れた魔王の前に立ち不死鳥の涙を発動する。

 

不死鳥の涙を受けた魔王の身体を目映い光りが包み、広場中を照らす。

 

余りの眩しさに、ガオンと紅い蟻の戦闘も一時的に止まっている。

 

だが骸骨である魔王に、スキルの効果は在るのだろうか。

 

そもそも生きているという概念が、当てはまるのかすら怪しい。

 

強烈な光りがゆっくりと魔王に収束していき、消えると予想外の事が起きた。

 

魔王が倒れていた場所には骸骨姿の魔王ではなく、何処にでも居そうな人間の男が倒れている。

 

どういう事だ、失敗したのか。

其れとも魔王が人間の姿で蘇ったのか。

 

胸にさっきの傷跡は無いが、着ている服は魔王の物で間違いない。

 

という事は解ったぞ。

魔王は元々人間で、魔法かスキルで骸骨の姿になっていたのだ。

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