雨実 和兎の小説創作奮闘ブログ

エッセイ・小説・詩・ポエム

52<今更>

52<今更>

洞穴の行き止まりで心折れた俺達魔王一行が座り込んでいると、近付く異様な音に反応して各々立ち上がり警戒する。

 

キラーアントと対戦していた時には無かった現象から予想すると、新しい敵の可能性が高い。

 

そんな事を考えていると大きな音と同時に洞穴の壁が崩れ、巨大でモグラの様な魔物が姿を現す。

 

新しい魔物の出現に俺達が身構えると、巨大モグラは両手を上げて弁解を始める。

 

「待っでくんろ、オラは敵でね」

 

太い爪に覆われた茶色い全身、モグラの魔物か?其れにしても田舎臭い喋り方だ。

 

巨大な見た目とは裏腹に、何だか今まで出会った魔物の中で一番親近感を感じる。

 

どうしたものかと一同顔を見合わせていると、モグラの背後からネズが顔を出す。

 

「近道正解ですわ、グレン様骸骨を届けに参りましたわ」

 

そう言えばコイツの存在を忘れていた。

 

外から入って来たという事は、外に出れるという事。

 

つまり俺達は生き埋めの状態から、無事助かったという事だ。

 

何時もヨダレを垂らして俺を狙うネズに助けてもらうとは、予想もしていなかった。

 

「ネズさんありがとう」

 

皆がネズを誉め讃える中、理由の解らないネズは愛想笑いを返す。

 

「ところでグレン様は……?」

 

ネズは辺りを見渡した後、クンクンと鼻先を動かし俺に顔を近付ける。

 

しまった。人間の姿のままだと何をしてくるか解らない。

 

だが今更誤魔化し様もなく黙っていると、ガオンが口を開く。

 

「其の人間が魔王様だ」

 

ガオンの言葉を聞きネズは不思議そうに首を傾げるが、もう一嗅ぎして納得する。

 

「確かにグレン様の匂いですわ……」

 

衣装が魔王の物というのも在るが、どうやら擬態は匂いにも効果が在るらしい。

 

「魔力が切れかけたのでな……」

 

取り敢えず其れらしい嘘を吐いてみたが、ガオンが本当の事を言えば即アウトだろう。

 

もしかしたら又、魔王が出て来ると思っているからかもしれないが。

 

兎に角助かった事を素直に喜んで、外に出るとしよう。

 

「其れでは脱出するか」

 

ネズ達が来た穴を通ろうとすると、何故かモグラの魔物が立ち塞がる。

 

「ちょっと待っでくんろ、オラ自分より弱い人間なんかの配下になれね」

 

配下?ネズの野郎いったい何を吹き込みやがったんだ。

 

このMP少ない状態なのに、戦って実力を示せと云う事か。

 

魔力が回復したらな。なんて言ったらネズの疑いが強くなるし、やるしかねーじゃねーか。

 

だが見た目ミノタウロスよりデカイし、岩盤掘り進んで来る位の腕力。

 

全く勝てる気がしね-。

 

一番親近感を感じるなんて思ってた自分を、ぶん殴ってやりたい。

 

そんな事を考えていると、呑気に笑う魔王の声が頭に響く。

 

「何やら面白い事になっているではないか」

 

何やらじゃねーよ。

出るのが遅せ-んだよ。

 

さっき、あんなに呼んでも応えなかったのに。

 

今更出て来て、面白がってんじゃねー。

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