54<睡魔>
54<睡魔>
立ち塞がるモグラの魔物と俺は向かい合い、今にも戦闘が始まりそうだ。
自分が戦いたいと云わんばかりにガオンが俺を見てくるが、今回はそうはいかないだろう。
やはり異世界は侮れない。
やっと洞穴から出て、帰って眠れるなんて思っていたのが甘かった。
一応魔王だと聞いているからか、身構えてはいるもののモグラの魔物は警戒して攻め込んでは来ない。
其の隙に使えるスキルでの戦闘を予想してみるが、勝利するイメージは浮かばない。
先ず此処には骸骨兵も居ないし、居たとしても時間稼ぎにすらならないだろうし。
他には<角創成>で右拳に角創成しての攻撃だが、ミノタウロス同様に固そうな毛皮に通じそうもない。
後は<粘糸><微毒>だが、大柄なモグラに持久戦は無謀だろう。
そんな事を考えていると、再び魔王の声が頭に響く。
「我の魔法なら一撃で倒せるぞ」
其れが出来たら苦労してね-よ。
こっちはなんちゃって魔王なんだよ。
「使える様になっているはずだぞ、我が使ったからな」
笑いながらだが、説明してくれる魔王は以外と寛大だ。
どういう事だか解らんが、慌ててステータスを確認すると確かに空間圧縮という魔法が増えている。
どうやったら使えるんだ?
「相手の心臓を意識して、両手を伸ばし軽く握ればいい」
まだモグラの魔物は距離を取ったままなので、魔王の云う通りに少し握ってみると。
「ウグッグッア……」
苦しそうな悲鳴と同時に、モグラの魔物はその場に倒れ。
抵抗する余裕も無さそうに、胸元を押さえている。
魔王の魔法というだけあって、恐ろしい攻撃だ。
相手が警戒して距離を取っていたのも幸いしているが、先手必勝なら無敵じゃないか。
とはいえ相手は巨体の魔物。
捨て身で突撃されれば、どうなるか解らない。
まだ油断は出来ないので、両手を伸ばし身構えていると。
「まっ、待っでくんろ。参っだ、オラの負げだ……。配下になるだ……」
ジャイアントモォール[擬態][能力擬態]の条件が整いました。
<土魔爪>を取得しました。
意外だったが、どうやら殺さなくても能力を得る場合が在るようだ。
自分で倒して得た配下というのは初めてだから、本当の意味で魔王に近付いたのかもしれない。
後は一応魔王らしい決め台詞で。
「其れでは城に帰るぞ」
こうして俺達はネズ達が来た穴を通り、無事に洞穴を脱出する事が出来たのだった。
だが生還した事で気持ちが緩んでいたのか、再び起こる災難の可能性なんて考えてもいなかった。
其れ故開けた穴はそのままとなり、洞穴内の広場へと繋がる通路が残る事となる。
其の広場では全ての残骸を食べ終えた紅い雌のキラーアントが、深い眠りに着いていた。
キングと成るべき存在である、番いの紅いキラーアントすらも食べて。
クイーンとして君臨すべく、より強く紅く成る為に。