57<おもてなし>
57<おもてなし>
「アイツまた強くなってやがる……」
ルミニーとガオンの戦いを観て、呟くルドエルは悔しそうに唇を噛む。
一緒に死地を戦い続け、同じ剣士だからこそ解る違い。
事実ルミニーはキラーアントの大群を倒した事でLVが上がり、更に強くなっていた。
又も開いた差にルドエルが落胆している中、ルミニーとガオンの戦闘は熱を増していく。
武器の差から手数で勝るルミニーを、ガオンは大斧の一撃で大地を炸裂させ補う。
そんな接戦でも笑っている二人は、互いに強敵と闘う事が楽しくて仕方がない様子だった。
「二人共止めてください!」
何時どちらかが命を落としてもおかしくはない攻防に、耐えきれなくなったエミリが間に入る。
「下がりなエミリ、ケガするよ」
立ち止まったルミニーは、面倒くさそうに頭を掻く。
エミリのおかげで一時的に戦闘は止まったが、ガオンがエミリの言う事を聞くとは思えない。
このままだとエミリが巻き込まれケガをする可能性が高いから、自分もただ傍観している訳にはいかなくなった。
だが実に困った。
此の人間の姿で、ガオンは俺の言うことを聞くのだろうか。
そんな事を考えているとゴブリンが駆け寄り、誇らし気に話し掛けてきた。
「魔王様御食事の準備が整いました」
誉めてでもほしいのか、ゴブリンの期待の眼差しが刺さる。
やはり姿は気にしなくても良いらしい。
其れにしても良い奴だ。
この上無く最高のタイミングだ。
「よくやったゴブリン、ガオン飯の時間だ。冒険者達をおもてなしするぞ」
俺の言葉を聞き反発するかと思ったが、ガオンは意外にも笑い飛ばす。
「ガハハ、やはり強いな冒険者の女よ。次は食後にするか」
其れを聞いたルミニーも笑い返し、二人は自然に肩を組む。
「残念そろそろ、とっておきのスキルを見せてあげようと思ったんだけどね。次は見せてあげるよ」
どうやら心配した俺達がバカだったらしい。
もう二人の事は放っていて良いだろう。
こうして食堂に移動した俺達は、ガルのメンバーと対面して椅子に座る。
各々緊張しているのか、楽し気に会話しているのはさっき迄闘っていたルミニーとガオンだけだ。
全員に食事を配り終えたゴブリンは席に着き、自慢気に口を開く。
「実は初めて取った獲物なんです。さあ皆さん、どうぞお食べください」
そう言ってゴブリンは子犬が親を見るような瞳で、俺に視線を送る。
そういえば生き物を殺せないとか言ってたな、ゴブリンなのに。
取り敢えず魔王っぽく頷いておくか。
そんなゴブリンのおかげで、おもてなしとしては成立している。そう会話だけならだ。
問題は只焼いただけの、此の料理。
これ大きさが違うけど芋虫だよな・・・。
此処にウスロスが居たら殺されてるぞコイツ。
「ガハハ、この量では腹の足しにもならんな」
そう言って、笑って食べてるのはガオンだけで。
ネズは、俺に渡すはずの骨をむしゃぶっているし。
当然、冒険者達は誰も食べようとしない。
気付いているのかは解らないが、だからといって其のウルウルした瞳で冒険者を観るなゴブリン。
冒険者達が、今にも泣きそうな顔をしているだろ。
泣きたいのは俺達の方なんだよ。