雨実 和兎の小説創作奮闘ブログ

エッセイ・小説・詩・ポエム

63<美味と企み>

63<美味と企み>

ギルドを出てガルのメンバーと別れた俺達は、教えてもらった宿屋に向かい町を歩いていた。

 

通りの店で服を買い着替えたので、もう変に注目される心配もない。

 

思いの外ミノタウロスの角が高く売れたようなので、其のおかげだったと云える。

 

当分の間は魔王城に戻らないつもりだが、安宿なら数日は大丈夫だろう。

 

「アレ、美味しそう」

 

そう言ってエミリが駆け寄った出店では、たこ焼きらしき丸い食べ物が売っている。

 

「たこ焼きみたい~! 」

 

鉄板こそ少しいびつではあるが、確かにエミリの言うとおりたこ焼きにしか見えない。

 

食の進化が同じなのか偶然の一致なのかは疑問だが、エミリが喜ぶなら何でも良いか。

 

「コレ二つ下さい」

 

「ハイどうぞ、ターコ焼きだよ」

 

ほぼ料理名も同じとは、もしかして転生者なのか。

 

店主はどこにでも居そうな普通のオジサンなので、そうは見えないが。

 

エミリが待ちきれず飛び跳ねているので、取り敢えず食べてから聞いてみるとしよう。

 

「美味しい~! 」

 

喜ぶエミリを横目に俺も一口頬張ってみると、旨い。

 

タレの味は現世と少し違うが、

久しぶりにマトモな食べ物を食べた気がする。

 

「旨いだろ、わざわざ流行りのレシピを購入したんだからな~」

 

自慢気にオジサンは語り、満足そうに俺達を見ている。

 

「其のレシピ作製者の名前って解りますか? 」

 

「阪口 ケータだったかな、ここらじゃ珍しい名前だろ。レシピで随分稼いだみたいだから、羨ましいこった」

 

間違いない、俺達と同じ転生者だ。

 

エミリとトウが転生者なのは自分が魔王じゃないと話した日に聞いて知ったのだが、他にも居るかもしれないのが解ったのは大きい。

 

まあ名前からして明らかに日本人だから、探すのは難しくはないだろう。

 

そう俺が確信した時、隣でターコ焼きを頬張っていたトウが呟く。

 

「ンゴ、ング。聞いた事の在る名前だな、確か面接の時に来てた若い男だ」

 

面接って何だ? 正直トウとエミリも転生者って事以外は、過去を知らない。

 

これから知っていけば良いかなんて考えながら俺は、満足顔のエミリを見つめる。

 

ターコ焼きを食べ終え宿屋に着いた俺達は、宿泊の手続きをしようとしていた。

 

「一部屋でお願いします」

 

女将さんにそう言うと、トウが鋭い視線で俺を刺す。

 

「どうしますか?」

 

嫌な空気を察した女将の問いに、俺達は口ごもる。

 

「多少の金は出来たが、節約しないとな……」

 

俺の言い訳を聞いても、まだトウは俺を睨み続けている。

 

鳥のくせに、もしかしてコイツもエミリを狙っているのか。

 

「解りました、一部屋でお願いします」

 

正に鶴の一声。

エミリの言う事にはトウも逆らえないらしく、仕方なさそうに黙っている。

 

 

その頃。

魔王城の地下では新しく仲間になったジャイアントモォールが、寝床用に掘った洞穴で眠っていると近付く足音に目を覚ます。

 

作ったばかりの寝床で誰も知らず、誰かが来るはずなんてないにも関わらず。

 

知っていて当然と言わんばかりに、迷いなく足音は近付いて来る。

 

立ち上がり警戒するジャイアントモォールをからかう様に、クククと笑い声が響く。

 

「貴方が新しいお仲間ですね、私は参謀をしているウスロスと申します」

 

ウスロスは喋る言葉の節々に奇妙な笑い声を挟み、其の不気味さからか警戒され続けている。

 

「実は貴方の力を見込んで、頼みたい事が在るのですが」

 

「オラに頼みっでが? 」

 

「そうです。此の地下に大迷宮を掘ってほしいのです、正に貴方にしか出来ない大仕事」

 

そんな誉め言葉も時折混ぜる笑い声のせいで、馬鹿にしている様にしか聞こえない。

 

だがジャイアントモォールは気付いてなさそうに、胸を張り笑顔を返すのだった。

 

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