64<地獄の始まり>
64<地獄の始まり>
エミリ達が居る街の近くには王城が在り、其の城壁に囲まれた一角で罪人達を処刑する広場を見下ろす二人が居た。
士官らしき軍服を身に纏った二人は、広場に連れ出された罪人を見下ろしながら会話を始める。
「幾ら人を殺した盗賊とは云え、本当によろしいのですか……」
「此れは国を護る為に必要な犠牲なのだよ、元より死罪なのだから遠慮など不要だろう」
「此の事を王様は知っておられるのですか? 」
「善良で在られる王様が関与すべき問題ではないだろう、要は使い方次第なのだから」
「其の使い方について、問うているのです」
「話しにならんな……」
そう言って士官の一人が片手を上げると、広場には縛られたまま動けない罪人だけ残され。
連れ添っていた兵士達は、広場から去って居なくなる。
上げたままだった片手を士官が下ろすと、塀の上から兵士が広場に液体を撒き。
待機していた魔法士が風魔法で、其の液体を散布している。
「なんという事を…… 」
そう呟き嘆く士官には目もくれず、もう一人の士官は罪人達に注目している。
数分が過ぎると処刑場に居た罪人達は息苦しそうにもがきだし、全身の皮膚が爛れ呻き声がこだまする。
「熱い…… 。殺せ…… 、殺してくれ…… 」
罪人達は一様に死を望むが、指示した士官の表情に変わりは無く。
地獄と化した処刑場を、冷酷に見下ろし続けている。
「どうやら商人が言っていた効果は本物らしいな。速効性で瀕死状態、凄まじいではないか」
「そんな事よりも早く処刑を……」
「何を言っているんだ、処刑してしまっては何れ位で死ぬのか検証に為らんだろう」
そう言って士官の一人が再び片手を上げると、処刑場から牢屋へ向かう通路の扉が開かれ。
治療をするから中に入れと、通路の中から兵士が罪人達の誘導を始める。
「商人いわく撒いた毒ガスの効果は10日間続くらしい、此の処刑場は立ち入り禁止だな」
嘆く士官を横目に、指示した士官は満足そうに笑うのであった。
その頃。ギルドにて依頼を受けたエミリ達一行は、街中での任務に取り組んでいたのだが。
眠い。とにかく眠い、受ける依頼を完全にミスってしまった。
一週間という期間制に釣られ選んでしまった任務だが、予想以上に苛酷だ。
LVが上がり力は問題無いのだが、問題は此の睡魔だ。
昨日トウを間に挟みエミリと同じベッドで寝たが、眠れる訳がない。
ずっとトウは俺を睨んでいるし、エミリはたまに足を乗せてくるし。
「オイッ!早く運べ新人! 」
そんな事を考える暇も無く、職人の怒声が響く。
いったい此処は地獄の何丁目だ。
重いレンガを運びながらでも、気を抜いたら意識が飛んでしまう。
「お前ら飯の時間だ! 」
職人の号令と同時に、昼食を運んできたのはエミリだ。
数日間は食事の準備や資材の管理等を手伝う事になっている。
「お待たせしました」
何気ないエミリの一声で、働いていた全員の表情が緩む。
正に天使だ。
さっきまで怒声を上げていた職人さえ、大丈夫か持てるかなんて言ってやがる。
其れにしてもトウの野郎、エミリが着る服のポケットでスヤスヤ眠りこけてるじゃねーか。
しかも胸元近くの。
なんて羨ましい野郎だ。
こっちは地獄を見て、働いているというのに。