69<トウ対セト>
69<トウ対セト>
舞台は異世界に戻り、対面したセトとの戦闘が始まる。
「ホラッホラッ!」
まるで旗揚げゲームのように掛け声を上げ、セトは笑いながらナイフを突き出す。
「避けるの上手いね~。どんどんいくよ~、ホラッホラッ!」
必死でナイフを避ける自分を、セトは馬鹿にした調子で攻撃を続ける。
この舐めた態度が、攻撃系のスキルを持っていないと予想してなら当たってはいる。
そう。
異世界に来たばかりの頃だったならだ。
魔王の配下になった事で、新しい攻撃系スキルを手に入れたのである。
使うのは初めてだから、相手がどうなるかは解らない。
そういう意味では敵が、遠慮する必要の無い狂人で良かったと云える。
「ファイア-ボール!!」
スキル名を唱えると、口から飛び出た火の玉がセトに向かう。
攻撃されると思っていなかったのか、何とか避けたセトは驚いた表情を返す。
「へぇ~、そんなのも出来るんだ。 まぁ、こっちも出来るんだけどね」
そう言ってセトは口から液体の毒を飛ばし、周囲に毒液を撒き散らしていく。
「触れたら溶けて死んじゃうよ~」
セトの言葉通りに、毒液の付いた草や樹が煙りを上げ溶けていき。
いつの間にか辺りは、其の毒液で囲まれている。
其れを見てセトは、口角を片方だけ上げ薄気味悪く笑うのだった。
「もう逃げ場も無いよ~。 馬鹿だよな~最初っからこうしてれば楽だったのに。 あっ、死んじゃうとスキル盗れないから駄目かアハハ…… 」
コイツは本当に人間なのか……。
毒を吐く異様な姿だけでは無い、其の狂悪な存在感と思考。
まるで言葉を話す魔獣、魔物よりもタチが悪い。
だが、まだ付け入る隙が無い訳では無い。
まだ毒液は液状を保っているが、物を溶かす位だから揮発性は在るだろう。
其れにセトがスキルを奪うのを狙っているなら、毒液で弱らせてからと企むはず。
其れを突破するには自分のスキルファイア-ボールで、毒液を相殺出来るかに掛かっている。
互いに攻め出すタイミングを図り、スキルを撃ち合う。
同時に放たれたスキルだが、威力が勝ったのはセトの方だった。
辛うじて直撃を避けた毒液が、背後の木々を溶かし倒す。
「次は外さないよ~、先ずは脚かな~」
愉しそうにセトは身体を揺らし、狙いを定める。
さっきと同じ様に撃ち合っても、命中されるのは時間の問題だった。
毒液も液状を保ったままで、当分は消えそうにない。
もう逃げ場所も無く、対抗する手段は残っていない。
其れでも……、エミリだけは助けたい。
やっと取り戻した娘の人生を、こんな奴に……。
込み上げる悔しさも、睨み返す事しか出来ない。
其の時。セトの頭上を一筋の斬撃が通り過ぎ、背後の木々を切り倒す。
驚き振り返ると、其所にはルミニー率いるガルのメンバーが居たのだった。