雨実 和兎の小説創作奮闘ブログ

エッセイ・小説・詩・ポエム

73<謝罪>

73<謝罪>


「……!? ンゴ、ンググググ……」

目を覚ましたセトは、粘糸で身動きのとれない状態に困惑している。

ンゴンゴと何か文句を言っている様子だが、粘糸で縛ったのは両手と口だから内容は解らない。

まあサイコパス野郎と会話をする気も無いから、丁度良いのだ。

コイツは取り敢えず衛兵に引き渡すつもりだが、その前にやる事が在る。

所謂お仕置き。
勿論エミリを襲った罰だ。

二度と近付きたくなくなる位に、俺が知っている最高の恐怖を味わってもらおう。

サイコパス野郎は顔を真っ赤にして、まだ何か言っているが構わない。
さあ、お仕置き開始だ。

走り出したクーガーは引き摺るセトを気にせず、軽やかに駈けて行き。

「ングゴゴゴ、ンゴ~!!」

セトの、言葉にならない悲鳴が響く。

だが流石に全速力でクーガーを走らす程、俺は悪魔ではない。

痛々しい傷痕は、出来れば視たくないしな。

とはいっても回復魔法は使えないから、多少の擦り傷は仕方ない。

街に着き振り返ると、セトは二度目の気絶をしていた。

盗賊を捕まえたと軽く説明して、衛兵に引き渡す。

「後で詳しい事情を聞かせてもらいます」

宿屋の場所を告げると、衛兵は一礼してセトを連れて行った。

トウの話しでは余罪も多そうだったので、牢屋から出る事は出来ないだろう。

急いで宿屋に戻り宿舎に近付くと、ルミニーと話すエミリの声が聞こえてくる。

今回エミリの護衛をガルのメンバーに頼んだので、安心して行動出来たのは大きかった。

ドアを開けると、心配そうなエミリの声が響く。

「マオーさん無事で良かった……」

「どうやら、当りを引いたのはアンタの方みたいだね……。で倒せたのかい? 」

そう聞くルミニーの表情は、残念そうに見える。

よほど、自分が倒したかったのだろう。

「さっき衛兵に渡してきたから、後で事情を聴きにくるらしい」
少し誇らし気に言うと、呆れた様にルミニーが呟く。

「……そんな服装だけで、よく騙せたもんだね」

其のルミニーの言葉で、思い出した。

俺、エミリの服着た状態だったの忘れてた。

室内には、ガルのメンバーが笑う声が響く

恥ずかしさで赤面する俺を庇う様に、俺の服を手渡しエミリが小声で呟く。

「でもマオーさん、格好良かったですよ……」

赤面のせいじゃなく、身体中の熱が上がったのが解る。

馬鹿にされて笑われてる状況での、この言葉。

これは、彼女が優しい天使だからではない。

これは、もう告白と受け取って良いのじゃないだろうか。

そんな事を考えていると、ドアをノックする音が響き。

さっきの衛兵が入って来て、謝罪を始めるのだった。

 

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