74<後悔>
74<後悔>
「いきなり謝るなんて、一体どうしたんだい……? 」
ルミニーの質問に応えようとする衛兵は、今にも倒れそうな程に衰弱している。
「……お、応援をお願いします。 いっ……何時の間にか縛っていた糸から逃れ、広場が……」
其処まで話すと、衛兵は意識を失い倒れてしまう。
捕まえた実力を見込まれ頼みに来たのだろうが、逃げられるとは予想もしていなかった。
「この様子だと、どうやら毒の攻撃をくらったみたいだね。 ルドエル、ギルドに連れて行き治療してもらいな」
ルドエルは馴れた様子で、軽々しく衛兵を担ぎ上げギルドに向かう。
「アタシ達は広場に向かうよ」
広場が近付くにつれて濃くなっていく、紫色の霧が視界を遮り。
何処で助けを呼ぶ声と、うめき声が聞こえてくる。
「深く吸い込むなよ、毒だぞ!!」
注意を促す自分の声と同時に、リジョンの魔法で旋風が巻き起こり。
視界を遮っていた毒霧が、あっという間に霧散していく。
「また、上手いこと逃げられたみたいだね……」
毒霧を撒いたであろう、セトの姿は其所には無く。
たまたま居合わせた被害者だけが、倒れ苦しんでいるのだった。
「お母さん……、 苦しいよ……」
子供の口元を布で覆ったまま、気を失う母親を視てエミリが呟く。
「酷い……」
広場の周りには、同じように毒霧で倒れた人達で溢れていた。
「……俺のせいだ」
「そんな事は……」
庇うようにエミリは否定したが、間違いなく俺の判断ミスだ。
倒して得たスキルのホーネットスティールで、セトのスキルを奪っておくべきだった。
そうすれば毒を撒かれる事も、逃げられる事も無かった。
「アンタ達、落ち込んでるヒマは無いよ。すぐにケガ人を集めて回復魔法で延命だよ」
ルミニーの言葉で、落ち込んでいた俺とエミリは我に返る。
其処からは各々慌ただしく分業して、今の自分に出来る事をこなしていく。
丁寧に確実に、誰もが救う為に。
ギルドからルドエルが解毒班を連れて来たのは、そんな頃だった。
すぐさま解毒班は、被害者全員の解毒にあたり。
結果死者は0人。
まだ咳き込む者は居るが、もう立ち上がり会話もしている。
どうやらセトが逃げる時間を稼ぐ為に、わざと毒殺せず負傷者を増やし。
毒を弱めていたのが幸いしたみたいだが、其れでも毒は毒。
後遺症を残しそうな者がいなかったのは、正に不幸中の幸いだった。
「どうもありがとうございました」
「お姉ちゃんありがとう……」
さっき泣いていた子供がエミリに手を振り、エミリは笑顔を返す。
もう平穏を取り戻した広場は、人も少なくなり月明かりが射している。
「ルミニー達も帰ったし、俺達も宿屋に帰ろうか……」
頷くエミリを横目に俺が考えていたのは、今なら自然に手を繋げるんじゃねだ。
勿論告白もしていないし、付き合っている訳ではない。
だが、こういうのは雰囲気が大事だと云うだろ。
感づいているのか、トウの鋭い視線が少し気にはなるが。
意を決してエミリの手に触れようとした瞬間。
俺の手は弾かれ、エミリに触れる事が出来なかった。
気のせいだろうと、もう一度挑戦したが結果は同じ。
理由を考えると、思い出したのはギルドでのやり取り。
トリプルレアだと周りが騒いでいた、エミリのスキル聖者の行進と。
俺がセトを倒した後に、種族が人間から人外に変わった事だった。