雨実 和兎の小説創作奮闘ブログ

エッセイ・小説・詩・ポエム

76<アクビ>

76<アクビ>

買い物を済ませた翌日の朝。

クーガーに小さな貨車を粘糸で繋ぎ、昨日約束した出店に向かう。

 

あまり重い物はクーガーでは運べないので、馬車に比べると半分以下の量になってしまう。

 

だが苦労して気に入られたクーガーを、誰かに預けるのは嫌だし。

 

そういう意味でクーガーは、もう家族みたいなものなのだ。

 

取り敢えず貨車を付けた状態で、走り出したクーガー達の様子を確認。

 

速度は抑えたが、予想していた程には嫌がってもいなく。

 

いつもと変わらず、二匹は快調に走っている。

 

約束の出店に着くと、店主が笑顔で迎えてくれている。

 

「農場やるには少ないだろうけど、頼まれた品物はコレで全部だ」

 

そう言って貨車に積み込みを終えた店主の息子は、汗を拭っている。

 

店主に代金の支払いを済まし。クーガーに乗った俺達は、領主との無用な争いを避ける為に魔王城へと急ぐのだった。

 

 

 

その頃、新しい仲間クイーンアントを迎えた魔王城では。

 

「オヤオヤ……。玉座に座るとは大胆ですね」

 

心配そうな言葉の割に、ウスロスの表情には何の陰りも無い。

 

「はて……。 居らぬ者に気を使うとは、どういう事ぞ? 」

 

不思議そうに訊ねるクイーンアントは、玉座に座ったまま寛いでいる。

 

「其れにしても随分と、お仲間が増えましたね。ククク…… 」

「こんなのはモドキぞ。 数日しか命を保てないからな」

 

そう言うクイーンアントの眼前には、生き残った数十体のキラーアントが並び。

 

其の背後には、新しく産まれたキラーアントもどきが並んでいた。

 

番ではなく。生き残ったキラーアントとの種では、通常のキラーアントは産まれず。

 

其れは、クイーンアントが骸骨兵を食し。

尚且つ、番である紅いキラーアントを食した事に依る進化が原因だった。

 

姿も人間寄りになり。

端整な顔立ちに頭に二本生えた触覚と、膨らんだ紅い尻。

 

災害レベルの魔物だが、もう顔だけなら人間との区別もつかない。

 

だが彼女の存在が、新しい波乱を巻き起こすのは間違いなかった。

 

「其れにしても魔王とやらは遅いのう、妾は待ちくたびれたぞ」

呑気にアクビをするクイーンアントを横目に、ウスロスは妖しく笑うのだった。

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