雨実 和兎の小説創作奮闘ブログ

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77<無駄足>

77<無駄足>

近くの領主が魔王城を攻める噂を聞いた俺達は、魔王城へと向かい急いでいた。

 

戦闘狂のガオンや妖しいウスロスが居るのだから、俺が止めなければ皆殺しは確実だろう。

 

不安は大きいが、思っていたよりもクーガーの移動は速く。

 

魔王城に着いたのは、陽も落ちきった夜。

 

「なんとか着いたな…… 」

 

俺の言葉にエミリが頷く。

 

外から観ると不気味な雰囲気なのは変わらずだが、戦闘跡や人の気配も無く。

 

どうやら間に合ったのか、まだ領主とやらは来てないようだ。

 

噂自体がデマで、無駄足の可能性は有るが油断は出来ない。

 

そのまま進み城門から城内に入ろうとすると、一人の人影がこちらに近付いて来ている。

 

「ククク……、 お待ちしておりましたよ魔王様」

 

そう言って出迎えをするウスロスの笑顔は、とても歓迎には見えない。

 

「実は魔王様の留守中に仲間が増えたのですが。其の者が魔王様の実力を観たいとの事で、参謀として此方で準備しておきました。

 

嬉しそうに語りながら、ウスロスが指し示す場所には洞穴が。

 

「其の者は玉座にて待っておりりますので、こちらの穴から進み。玉座まで生き延び、其の者を倒せればゲームクリアとなります」

 

ひとしきり説明を終えると、ウスロスは城内からゆっくりと門を閉め。

 

「魔王様の手に掛かれば、正に遊戯。 ゲームで御座いますが、其れではお楽しみを……。 ククク…… 」

 

そんな白々しい捨て台詞を残し、ウスロスの姿は見えなくなる。

 

門前に取り残された俺達は、洞穴を前に溜め息を吐くのだった。

 

何が参謀としてだ。

あの野郎。最後のククク、確実に本気で笑っていたな。

 

アイツに移動系の能力が無ければ、真っ先に心臓握り潰してやりたい位だ。

 

そんな事を考えていると、エミリが明るく呟く。

 

「……また洞穴ですね」

 

「仕方ないな…… 」

 

もう呆れているであろうエミリに、なんとか苦笑いを返す。

 

思い返せば、エミリには俺のカッコ悪い所しか見られていない。

 

ミノタウロスに殺されかけたり、クーガーに引き摺られ死にかけたり。

 

あのサイコパス野郎を倒した時も、結局一人だったし。

 

そう考えると今の状況は、悪くないのかもしれない。

 

中距離戦闘なら負けない位に、俺も強くなったからな。

 

「エミリ達は少し下がっててくれ」

 

洞穴からエミリ達を遠ざけ、<黒魔の息吹き>の麻痺毒を洞穴内に吹き込む。

 

ちょっとしたゲームみたいなものなんて言っていたが、信用なんて出来ない。

 

どうせウスロスの事だから、洞穴内は魔物だらけなんだろう。

 

今迄の俺なら何もせずに入って、後で後悔していただろうが。

 

今回は、そうはいかない。

これで、中に魔物が居ても動けないだろう。

 

トウから聞いたエミリのスキルなら、俺の毒は受け付けないし。

 

トウも、エミリの近くに居れば大丈夫だ。

 

俺には毒耐性が有るから、問題無い。

 

ウスロスが何を企んでいるのかは知らないが、これで無駄足になったな。

 

早く悔しがる顔が見てみたいもんだ。

 

こうして俺達はクーガーと貨車を残し、洞穴内に進むのだった。

 

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