雨実 和兎の小説創作奮闘ブログ

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〈思い出〉2

〈思い出〉2

 授業が終わり学校から自宅に帰ると、別室に居た両親は何やらヒソヒソと難しい話しをしている。
 この時間の家に父親が居るのは珍しかったので呼び掛けたかったが、
 子供ながらに入りづらい雰囲気なのは理解出来た。

 いつものように話し掛けられるのを子供部屋で待つ間、聞こえてくる内容が口論なのは間違いなかった。

 よぎる不安から落ち着きも無く。
 話し掛けたら普段のように笑い掛けてくれるかもなんて悩んでも、やはり怖くて声は掛けれない。

 ただ聞き耳を立てて待つだけの重苦しく長い時間が続く。
 微かに聞き取れた内容は父親が職場でケンカして仕事を辞めたのと、残りの給料を貰いに行かないという事。

 長いようで短い数分が過ぎ、やっと静かになった別室から出てきたのは父親だけだった。
 声も出せず近づき呼び止める自分に、父親はいつになく真剣な表情で語り掛ける。

「どんな事が有っても男の子は女の子に手を上げたらアカンぞ・・・」

 どう言葉を返したら正しいのか解らないまま頷くと、
 父親は安心したような顔を見せて振り返る事無く家を出て行く。
 其れが父親との別れの会話だった。

 別室から微かに聞こえる母親の泣き声が、もう父親とは会えないかもしれないと思わせるには充分だった。
 其の事について何も言わない母親に聞く事なんて出来ない。

 明日には帰って来るかもしれない、そんな期待が無くなる迄そうなってしまった理由を考え続けていた。

 あの時に自分が追いかけて、もっと必死に引き止めれば父親は出て行かなかったんじゃないか。
 そうなる前に強引にでも間に入るべきだったのか。

 そもそもこんな恵まれない状況下で、父親がケンカした理由は家族を馬鹿にされたからじゃないのだろうか。
 其れを理解出来なかった母親も許せなくなったのか。

 だからといって家を出てしまえば元も子も無いだろう。
 正解は解らないままだが、其れでも一つだけ解っている事が有る。

 元々血は繋がっていない。
 悪くいえば子を捨てたという事になるだろう。

 産みの親に恨みが有る訳でもないし申し訳ないとも思う。
 もしかしたら自分の考えは間違っているのかもしれない。

 其れでも自分にとっての父親は育ての親だと思っている。
 この少ない思い出全てが自分にとっての父親で、これから先も目標として変わらない。
 其れが父親という存在に対して自分が出した答えだった。

 そんな幼少期を経て自分も父親になったのだから、当然我が子を傷つけたくはない。
 だがそう思っていても、子供を叩いた事が二回有る。

 一度目はケンカにもならない位に小さな妹を、長男が一方的にいじめようとした時。
 もちろん何度も口で注意したし、必ずしも自分の教え方が正しいとは思わない。

 両親を取られた気がしていたとか、子供なりに理由は有るのだろう。
 だがどんな理由が有ろうとも女の子を殴ってはいけない、俺も子供の頃に父親から教わった。

 二度目は運動会に参加したくないと息子が駄々をこねた時。
 この二度目の時に自分が怒った理由を君が理解出来なかったせいで、
 一時期学校行事に呼ばれなくなってしまった。

 この頃は息子が学校に行く事自体を嫌がり。
 その理由を気にしていた自分は、我が子がいじめられているのではないかと疑う。
 当然の流れだった。

 それとなく子供に聞いてもみたが、そんな事は言わない。
 だが別に不思議ではなかった。

 同様のニュースでは毎回、子供は教えてくれなかったと報道されている。
 ならば想像したように事実イジメだとしたら、相手は誰なのかが重要だ。

 もしも同学年の生徒ならば、学校との相談で多少の対応は出来るだろう。
 だが教師の可能性だって全く無い訳ではない。

 疑いたくはないが信用で子供の命は守れないのだから。
 其れを調べる為に休日ボイスレコーダを買い、
 録音状態にセットして朝の通勤前に子供のカバンに仕込んでおいた。

 予定では夜に回収して聞き調べるつもりだったが、その日は仕事が忙しく帰りも遅れ。
 カバンの中に入ったまま翌日に持ち越されたボイスレコーダは、
 学校で先生に見付かり子供が問いただされる事となる。

 そんな状況になっているとは知らず、家に帰った自分に君は訊ねる。

「コレ何?」

 一瞬言葉に詰まるが、悪い事をしているとは思っていないので隠すつもりは無い。

「ソレ俺のやわ」

「何で子供のカバンに入ってるの?先生に聞かれたよ・・・」

 怪訝そうな表情を浮かべ君は問いつめる。

「学校に行きたくないって言ってたから調べようとしてたんや」

 まるで反省する気なんて無さそうな自分の態度に、君は業を煮やしたのか。

「コレは預かっておきます!」とボイスレコーダはそのまま取り上げられてしまう。

 先生を疑うなんて常識が無い。
 そう言っているみたいだった。

 それでも自分は反省なんてしていない。
 自分で調べもしないで何が解る?俺はそう思っていた。

 後日その取り上げられたボイスレコーダを隠された場所から抜き取り、
 実際に聞いてから同じ場所に戻しておいた。

 さすがに録音した音声は消されていなかったので確認は出来たが、
 内容は何処にでも有る小学生の日常そのものだった。

 とはいえ何も無い日だったのは、偶然の可能性だって有る。
 まだ疑う気持ちの全てが晴れた訳ではなかった。
 

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