雨実 和兎の小説創作奮闘ブログ

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「宿題と一歩」1

「宿題と一歩」1

 知らない間に出来ることが増え成長していく子供達にとって自分の影響力なんて些細なもので、
 君にとっても其れは同じようなものだったのかもしれない。

 自分が生きていた頃は家事を手伝う事なんて殆ど無かった。

 稀に君から用事を頼まれるような時も思うようにいかない事が多い、
 きっと他の男性ならもっと上手くこなすのだろう。

 我が家の洗面台が水漏れした時もそうだった。

 ポトポトと蛇口から滴る水滴を見て君は「壊れたのかな……?」と困っていたが
「冬だから温度差でじゃない」と検討違いな言葉を返す俺は全く的を得ていない。

 そんな状態で数日ほったらかしていると、
 もったいないと思ったであろう君は其の水を汲み別の容器に移し代えていた。

 暖かくなれば止まるだろう位に思っていたが、そんな負担を掛けているのにそのまま放っておく事は出来ない。

 調べたら原因は蛇口内部に有るカートリッジの劣化に依るものらしい。
 業者に頼めば三万円位は掛かるが、自分で交換するなら五千円位で済む。

 多少面倒だが交換方法も親切なサイトが動画説明迄してくれていたので、自分でも出来そうに思えた。

 少しばかりの道具を揃え、いざ実践してみると取っ手は外せたがカバーが取れない。
 何やらストッパーキャップというのを外してかららしいが、
 何度動画を見直して見ても型番が違うので方法が一致しない。

 結局止水栓を止めた状態で諦め、水漏れはしないが水を出す事も出来ない。
 君が水を汲む必要はなくなったのは良いが、これでは洗面台自体が無いのと替わらない。

 他の動画も探して見てみたが完全に同じ型番の説明は無いので、
 止めたままの状態で二週間が過ぎようとしていた。

 いつまでもそんな状態で放っておく位なら最初から業者に頼めば良かったかななんて思うが、
 もう少しで出来るのは間違いない。

 動画説明に有ったストッパーキャップの事は気にせず、もしも壊れたら部品を買い換える事にした。

 びくともしなかったカバーを力一杯回すとカバーは嘘のようにすんなり外れ、
 やっとカートリッジを取り外し交換する事が出来た。

 水漏れになってから修理が終わる迄に、もう一ヵ月近くが経とうとしていた。

 君は子供達と喜んでいたが、自分は納得なんてしていない。
 もっと上手く出来たはずだと。

 自分が何かしようとしても終始こんな調子なのだから、自信も持ちようがない。

 其れでも生きていれば何かしらする事は出来るのだから、まだマシだろう。

 君が笑えばどんな苦境だったとしても笑い話になるし、君が悲しめば何でもない事でも悲劇に変わるのだから。
 本当に手伝う事の出来ないこんな姿になって、あの頃にもっと手伝ってあげればよかったなんて。

 家事は日々との戦いだなんて聞いても、今さら自分には参加も出来ない。
 夜更かしと宿題、抱えている問題は子供が居るなら何処の家庭でも同じだろう。

 言うことを聞かない息子に困った君は、友達に対処法を聞いたりするが大抵効果は無い。

 君の真似をして娘も宿題しろと騒ぐが、兄弟ゲンカになるので其れを叱るべくか君はいつも悩んでいる。

 日々の家事に追われ思うように解決しない問題。

 自分が居た頃はどうだっただろう。
 少しは手助けになっていたのだろうか。

 そんな進展の無いやり取りが数日続いていたが、
 いつの間にか宿題を終わらすようになる息子に君は不思議がっていた。

 その一部始終はいつものようにテレビに夢中で宿題を始めない息子に
「兄ちゃん宿題してない」と娘が急かしたて。

「うるさい!後でやるから良い」と何度か同じような会話のやり取りが続き、怒った息子が追いかけ叩こうとする。

 君は近くに居るが夕食の後片付けに追われ、口で注意するのが精一杯だ。

 兄弟ゲンカの度に娘は決まって自分の座って居る場所に逃げ込み盾にしていたが、
 いつもと違ったのは其の時の一言だった。

「ちゃんと宿題しないと怒られるよ」

 身体の無いこんな姿でも会話は聞き取れるのだから、状況に合わせて動く事は出来る。

 二人には見えているようだから躊躇う事も無い。

 おおげさに怒ったフリをして立ち上がろうとすると、警戒した息子は諦めたようにやっと宿題を始める。

 見えない君は不思議そうに「お父さんはすごいね」
 と娘が父親に言うという意味だと勘違いしているが実際はそうではない。

 この子達にとって、もう自分は父親じゃないのかもしれないし。
 いつまで存在出来るかすら解らない。

 其れでも何かしらの影響を与える事が出来るのなら、其れは感謝するより他に言葉が見付けられない。
 だがもしも自分という不可思議な存在がいなかったとしても、結果は同じだったかもしれない。

 自分が望むのと同じように子供達は日々成長を求め、いつの間にか自ら進化していく。

 時に其れは親の望む方向ではないし、親の予想や期待を超えてくる時も有る。
 理由は親の期待に応える事なのかもしれないし、本人の後悔なのかもしれない。

 解らない事だらけな育児の中で唯一つだけ解っている事も有る。

 其れは見守る事と期待し続ける事を諦めてはいけないという事。

 其の気持ちが子供達にとって煩わしく重圧になる時も有るだろうが、
 いつの日かきっと帰る場所になるのだから。

 其れは自分が子供の頃にそうだったように。

 

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