雨実 和兎の小説創作奮闘ブログ

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「入学式とビデオ」1

「入学式とビデオ」1

 一体何から卒業したいのか解らないのに速く大人になりたかったのは、
 きっと環境から抑圧されている事に幼いながらも気づいていたからだと思う。

 他人はどうか知らないが自分が子供の頃は間違いなくそうで、
 其れは自分よりも先に生まれた兄弟達も同じだった。

 兄貴がグレ始めた中学生の頃に自分は小学生高学年で、我が家は兄貴の悪友達の溜まり場と化していた。

 バスケやサッカーの漫画が流行っている時と同じように、
 ヤンキーの漫画や映画が流行っていたというのもあったし。
 其のおかげか多少モテるという、需要と供給が成立していたのも一因だろう。

 遠慮なんて知らない兄貴の悪友達は我が物顔で我が家の物を漁り、
 其の散らかしきった部屋を片付けるのが自分と姉貴の日課となっていた。

 シンナーの匂いが充満した部屋を換気して、所構わず散乱した食べ散らかされた食器を洗う。
 その役目を自分と姉貴がこなせれたのは、仕事で疲れている母親を想ってなのは言うまでもなく。
 この頃の兄貴は自分にとって厄介な反面教師でしかなかった。

 こうなってしまった兄貴を恨みきれないのは自分にも多少は理解出来る生まれた環境に対する怒りで、
 幸せそうな他人と比べ羨ましがる事は屈辱だったのだろう。

 自分も兄貴という反面教師がいなければ同じ様になっていたかもしれないが、
 だからといって自分は感謝こそしていても母親を恨んでなんていない。

 少数派で在る自分を特別だと思っていたし、だからこそ知る事が出来た事も沢山有ったはずだと。
 本当は兄貴も同じ気持ちだったのかもしれないが、
 もう抜け出せない所迄来ているのだと察するには子供でも充分で。

 其れを強く感じていたからこそ兄貴は反発し続け、もがいていたのだろう。
 父親が居れば止める事が出来たのかもしれないが、もう離婚していて居ない。
 明日に期待する希望なんて何も無かった。

 そんな状況の我が家に帰りたい訳も無く、本屋で立ち読みしては時間を潰し。
 店員の視線や行動で居心地が悪くなれば、帰って部屋を片付ける日々が続く。

 磨り減らしていく自分の精神とは対称的に部屋に増えていく盗難品は、彼等なりの謝礼だったのかもしれない。
 買えるはずもないカラオケ機や高級な衣服が、狭い部屋をより一層狭く飾り付けていた。

 ひっそりと犯罪に勤しんでいたのも最初だけで、
 騒がしい荒くれな者が常に七・八人集まるのだから静かな訳も無く。
 耐え兼ねた近隣の住民から苦情を受けた警察が訪ねて来るのは当然で、
 其れは溜まり場と化して数ヵ月後の事だった。

 鍵を閉められた玄関越しに警官は呼び掛けるが、静まり返る室内に潜む誰も応える気はない。

「居るのは解ってるんやぞ、早く開けろ」

 何度かの怒声が響き一瞬静かになり諦めたのかと思うと、今度はドリル音が響く。

 数分後にはポストが外され、玄関の鍵も開けられる。
 漏れ無く室内に居た全員が取り押さえられ、警察署に連行された。

 移送されたのは片付け役の自分も同じで、乗せられたのが護送車だった事が何だか可笑しかったのを覚えている。
 きっと人数も其れなりに把握されていて、計画的だったのだろうと。

 署内では広めの一室に集められ、一人また一人と別室に連れられて行く。
 最終的には全員同じ一室だったのだが、悪い事をした訳ではない自分は傍観者。

 多少悪びれる彼等を眺めながら、ただ身元引き受け人の母親を待つ時間が続く。

 悪い奴等同士で知らない者なんていないのが普通なように、
 彼等にとって暴走族の一員なんてのはステータスとしては当たり前の一部。

 他校の生徒とケンカして大怪我を負わせたなんて日常茶飯事だったし、
 カバを苛めたバカとして地元新聞に載ったとか。

 余罪なら幾らでも在るだろう彼等だが、そのまま牢獄に連れられる訳ではないのが少年法という防壁だった。
 このメンバーの中に凶悪犯罪を犯した者がいないのが、唯一の救いだろう。

 とはいえ自分だって悪い事をした事が無いなんて言えない。
 小学一年生の頃には大して欲しくもなかった菓子を盗み、店員に捕まり。
 その場は泣いて謝り許してもらえたが、二度としないと後悔したのを覚えている。

 同世代の子供が親に買って貰うのを見て、悔しかったからだった。
 それでも似たような出来事が幾らか有るのは、自分が望んだ訳ではない事が多く。

 成長すればするだけ犯す罪は酷くなり、結果的には兄貴とも少しか変わらない悪ガキとなる。

 誰だって多少の罪を経験して学び大人になるのだろうから、同じ様なものかもしれないが。
 少しだけ自分は運が良かったと思えるのは、越えてはいけない一線を歩み掛けた時。
 警察に捕まる事で踏みとどまる事が出来たのと、反面教師が周りに多かったから。

 こうして我が家は少しばかり静かな日々を取り戻し、自分も子供らしい日常を過ごせた。

 もちろん簡単に更正なんて出来る訳もないから、同じような出来事は幾らでも有ったし。
 場所が変わっただけで彼等のやっている事は大して変わっていない。

 何人かが鑑別所に送られ一時的に人数が減ったのと、其の送られた一人が兄貴だったという位で。

 

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