33<冒険者と貴族>
33<冒険者と貴族>
翌日の朝。
ご機嫌なルミニーとは違い、リジョンとルドエルの二人は不満そうな溜め息を吐いていた。
「・・・・・・戻って直ぐは流石に憂鬱だな」
「良いんじゃない、行くだけで報酬貰えるんだから」
ルドエルが溢す愚痴を、ルミニーは笑い軽くあしらう。
さっきからずっと無意味にデーモンバスターの出し入れしてるルミニーは、二人の不満にすら気付いていない。
上級の冒険者がルミニーの持つ剣を羨ましそうに見ていたのが、余程気分良かったらしい。
そんな事は関係無い二人の吐く溜め息は、更に重くなっていくのだった。
「おいでなすったよ」
調査員として待ち合わせ場所で合流したのは、王国騎士ケルマンとギルド書記官ラタの男性二人だった。
書記官のラタは三人と何度かギルドで話した事も有り初対面ではなかったので軽く会釈をして馬車に乗り込んだのだが、問題は王国騎士のケルマンだった。
「私は今回の調査に同行する事となった王国騎士ケルマンなのですが、君達が魔王を倒したというのは本当なのかね・・・・・・」
ケルマンは挨拶もそこそこに三人の顔を視るなり、疑いの眼差しを浴びせ掛ける。
「可笑しな事を聞くんだね、其れを今から確認しに行くんじゃないのかい? さっさと乗りな出発するよ」
「ホホッ 会話も出来ないとは、やはり冒険者というのは野蛮なのですな」
減らず口を叩きながらもケルマンは馬車に乗り込み、一行は険悪なムードのまま魔王城に向かう。
「それにしても、いけ好かない野郎だね」
機嫌悪く馬車を走らすルミニーは、其のいけ好かない野郎が一緒に乗っている事など構わない口ぶりにリジョンが囁く。
「聞こえますよ・・・・・・」
この街の王国騎士は貴族出身が多く、冒険者を下に見ている傾向が強くケルマンが特殊な訳ではない。
貴族を敵に回すと圧力を掛けられ街に居づらくなるので、冒険者達は基本関わらない。
そんな事はルミニーも承知していたが、今迄実際に目の当たりにする機会は無かったのでイラつくのは尚更だった。
「盗賊でも出ないかね・・・・・・」
ルミニーの呟く願望は明らかに八つ当たりの為だったが、結局宿泊予定地に着く迄の道程では魔物にすら会わなかった。
宿泊予定地では、慌ただしくガルの三人が野営の準備を始め。
書記官のラタも手伝っていたのだが、ケルマンだけは座ったまま煙草を吹かし寛いでいる。
「随分と貴族様ってのは、お偉いんだね・・・・・・」
火起こしを始めたルミニーは不機嫌そうに薪を投げ込み、ケルマンに毒づく。
ケルマン以外の皆が同じ気持ちだからか、もうルミニーの言葉を止める者はいない。
「はて? 私に対して今、何か言いましたのかね」
ケルマンは立ち上がり、ルミニーに詰め寄り。
「耳は飾りじゃなかったんだね」
そう言ってケルマンを睨み返すルミニーは、引く気も無さそうに立ち上がる。
向かい合って並び立ち一触即発の雰囲気を、もう止める事は出来ないとルドエルが溜め息を吐いた瞬間。
「魔物が近付いて来てます」
リジョンが叫び。一行は身構え、二人の争いは一旦休戦となったのだった。