38<宣言>
38<宣言>
ガオンが寝たのは諦めよう、流石に魔物が来たら起きるだろう。
其れよりも今、気掛かりなのはゴブリンの挙動不審だ。
骸骨兵の帰りを待つ間に気付いたが、魔物を警戒しているのか辺りを何度も見回している。
其れだけならゴブリン自体が弱いから警戒しているのかとも思えるが、時々俺の方もチラ見しているのが気になる。
何か企んでいるのかとも思ったが、あれだけ社畜のゴブリンに限って其れは無いだろう。
となると考えられるのは、ボスである魔王に対しての期待の眼差しだ。
此れはもう有る意味刺客だ。
全く油断出来ない。
戦う姿を見せて弱そうだと思われたら、何が起きるか解らない。
唯一の心の安らぎは傍に居るエミリを見れる位だが、其れをしているとトウから鋭い視線が刺さる。
何なんだ此の状況は、刺客だらけじゃねーか。
魔王って、もっと権威が有るんじゃないのか。
早く骸骨兵帰って来てくれ。
そんな俺の願いが届いたのか、骸骨兵は無傷で帰って来た。
骸骨兵に指示したのはダンジョン内部の視察だけだが、魔物が居るなら攻撃され無傷ではないだろう。
「良し、どうやら安全そうだ。ガオンを起こしてくれ、中に入ってみるぞ」
「はい、命懸けでやらせて頂きます」
ゴブリンが透かさずガオンを起こす、確かに寝起きが悪ければ命懸けかもしれない。
先頭を骸骨兵二体、寝起きで面倒そうなガオンの順で俺達は洞穴の奥へと進んで行く。
岩壁を掘り進めたような内部は暗く、トウが灯り代わりになっている。
別れ道に差し掛かると骸骨兵が立ち止まり、ゴブリンが俺に訊ねる。
「二手に別れますか? 魔王樣」
其の期待の眼差しをやめろ。
別れるはずがない。
そんな事をしたらガオンの居ないチームはどうなるか解らね-じゃねーか。
そんな気持ちをグッと堪え。
「必要ない、このまま右に行くぞ」
そう云うと一行は右の洞穴を進み歩き続け、その間に何度かの別れ道に遭遇する。
一応進んだマッピングはエミリにしてもらっているが、そんな経験は無いだろうから当てには出来ない。
そろそろ戻った方が良いか考えていると、前方からキラーアントが八匹現れた。
キラーアントは骸骨兵を通り抜け、ガオンを狙い飛び掛かる。
実力差から考えれば骸骨兵を狙いそうだが、もしかして敵だと認識されていないのか。
透かさず骸骨兵に攻撃指示を出すと、後列のキラーアントは骸骨兵にも飛び掛かる。
結果的には全キラーアントをガオンが一人で倒したので良かったが、問題は骸骨兵が敵と認識されていなかった事だ。
偵察が無意味だったのなら、中に何れだけ敵が居るか予想も出来ない。
更にダンジョン内では感知の効く範囲が狭く、進む先を選ぶ基準にもならない。
「敵が増えてきましたけど、このまま進みますか」
立ち止まり考えていると、丁度良くゴブリンが聞いてきた。
取り敢えず進むなら、先ずはゴブリンの期待を潰しておかないといけない。
「進もう、此れ位の敵数で我は戦わないがな」
完璧な宣言だ。
まあガオンが要れば此処は大丈夫だろう。
此れで安心して探索を続けられる。
誰もが油断していた此の時、静かにピンチは迫っていたのだった。