13<駄目な父親の覚悟>
<駄目な父親の覚悟>
道中魔物には殆んど会わなかったので、宿泊予定地に着いたのは予想よりも早く。
夜になる前に一行はキャンプの準備を済ませ、飯を食べ終えた所だった。
「トウちゃん食べ過ぎだよ、お腹が風船みたいになってる」
「食べないと大きくならないからな」
心配するエミリに其れらしい事を言って誤魔化したが、なんて事はない。
召喚獣だからかも知れないが、単純に魔物が美味いのである。
身体がひよこ並みに小さいから、食べる量も遠慮が要らず油断してしまった。
「女性なのに、とても強いんですね。病弱なので憧れます」
そう言ってルミニーに笑い掛けるエミリは、安心しているように見える。
現実ではないとはいえ急激な環境の変化を心配していたが、大丈夫そうで良かった。
だが現実は病弱なんてもんじゃない、目覚める事すら出来ないのだから。
この状況を、エミリはどう思っているのか聞いてみたい。
覚めない夢だとでも思っているのだろうか。
速く起きて現実に戻りたいのだろうか。
全く思っていなければ其れは其れで淋しいが、やはり聞く事なんて出来ない。
本当の事は話せないのだから。
そんな事を考えている間も、ガルのメンバーと話すエミリは楽しそうに笑っている。
其れだけで救われた気がする。
自分の判断は間違っていなかったと。
そろそろ現実に戻らなければいけないからか、何だか考え込んでしまう。
数日後には又会えると解っているのに、一日も離れたくない。
もう現実にも戻りたくないなんて、本当に駄目な父親である。
ずっと考えていても仕方ない。
「先に眠るよ」
そう言って一人テントに入ると、ログアウトを宣言する。
此れは完全におかしい。
ログアウトを唱えれば表示されるはずの画面が、今日も出てこない。
運営がメンテナンスしていたとしても一日経っているから、もう復旧しているはずである。
運営に連絡するような手段を考え探してみるが、何も見当たらない。
どうやら此の世界に取り残されてしまったみたいだ。
現実世界に戻りたい理由は特に無いが、鳥の姿なのは困った。
通信での確認が出来ないなら、今一緒に居るガルのメンバーに聞いてみるしか方法が思い付かない。
「何だか眠れないな」
白々しい嘘を吐きながらテントを出て、メンバーと一緒にかがり火に当たる。
まだ起きているエミリも一緒に居るが、対面に座ったので此所なら聞こえないだろう。
「ログアウトの方法知ってるか」
ルミニーに聞いてみると、ログアウトという単語の意味自体を知らず。
「なんだいソレは? 魔法の一種かい」と逆に聞かれてしまう。
メンバー達との会話を思い返してみても、人としての違和感は無いのでノンプレーヤー設定ではないと思える。
となると考えたくはないが、異常なのは自分とエミリだけなのである。
設定どうりなら火の鳥の自分は、死なない身体になったという事だ。
普通なら嘆くだろうが、今はかまわない。
自分には、エミリを見守るという使命が有るのだ。
神様に感謝したい位である。
取り敢えずは自分の能力を把握して、戦えるようにならなければ。
魔物なら問題無いが今日のように盗賊に襲われれば、二人だけなら殺されてしまうかもしれない。
其れとダイエットだ。
せめて飛べるようにならなければ、足手纏いになりかねない。
そんな事を考えている間もガルのメンバーと話すエミリは、よく笑っていて。
其れを此の異世界が祝福するように、輝く満天の星空で迎えてくれている。
きっと親としての覚悟は現実でも異世界でも変わらない、此の笑顔を守る為なのだから。