雨実 和兎の小説創作奮闘ブログ

エッセイ・小説・詩・ポエム

61<勝者の勇気>

61<勝者の勇気>

心配したエミリが隣に居てくれた事で、賭けはうやむやになり。

 

衣服の背中部分が破れて尻が見えそうな事を代償に、完全なる勝利を手に入れた。

 

隣に居る状態ならエミリにも見えないだろうし、何より勝利者という言葉は気分が良い。

 

「魔王さん着きましたよ」

 

夕暮れ時。

前方に町が見えてはしゃぐエミリとは対称的に、トウに笑顔は無い。

 

来る前も何故か渋っていたが、ゴブリン飯のおかげで何とか納得していた。

 

町から来たと聞いていたが、喋る火の鳥が珍しくて何か在ったのかもしれない。

 

そんな事を考えている間に、俺達は町の入口に差し掛かる。

 

「アンタ達お疲れ、今日は魔物出てないかい? 」

 

町には武器を携えた門番らしき人物が二人居たが、ルミニーと軽く会話しただけですんなり通してくれた。

 

人間の姿だから疑う理由も無いのだろうが、思っていたよりも緩めの警備だ。

 

クーガーから降りた俺達は、いよいよ町に入る。

 

町中では俺達の様にクーガーを連れている人も居るが、どちらかと云うと馬車の方が多い。

 

異世界の町を初めて観るが、それなりに人が歩いているので景色よりもはだけた背中が気になる。

 

「荷物が邪魔だから、先にギルドに寄るよ」

 

ルミニーが言っている荷物は、布袋いっぱいに詰めたキラーアントの触角だ。

 

何か換金しないと金が無いのは俺達も同じだから、一応売れそうな物を準備はしてきた。

 

ギルドに入ると建物内は依頼を終えた冒険者達で溢れていて、俺達は其の中を通り抜けカウンターで手続きを始める。

 

「ケルマンとラタは無事帰って来たかい? 」

 

「ルミニーさん……、三人共無事だったんですね」

 

どうやら事情を知っているらしいカウンターの女性職員は、三人の顔を見て涙ぐむ。

 

「無事に決まってるじゃないか、さあコレを頼むよ」

 

そう言ってルミニーは笑顔を返し、触角を詰めた袋をカウンターに乗せた。

 

袋から出した大量のキラーアントの触角を見て、女性職員は言葉を失う。

 

「オイ……、マジかよアレ……」

 

「A級になるって噂になる位だからな……」

 

何やら背後に居る冒険者達が、ざわつきだしている。

 

あの大量な触角を視れば当然なのかもしれないが、今は勘弁してほしい。

 

俺の背後にルドエルが立っているから気付かれてないが、こっちは背中丸出しなんだよ。

 

そんな俺の思いとは裏腹に、ラタという職員が来て感動の再会が始まり。

 

気の利かないルドエルが前に移動して、俺の防御壁が無くなってしまう。

 

頼むから、もう注目されないでくれ。

 

「オイ……。アレ一緒に居るの、トリプルレア聖者の行進お嬢ちゃんじゃないか」

 

「抜け目がねーな!ガルに入ったのか」

 

願い空しく、背後のざわめきは一向に止まらない。

 

寧ろ聞こえる声の人数も増え、更にヒートアップしている。

 

何だトリプルレア聖者の行進って? コイツらエミリの事を言ってないか。

 

だがいよいよ其れ処ではなくなる、恐れていた会話が始まる。

 

「あの背中はだけてるのは誰なんだ? 」

 

「手錠してないけど、盗賊でも捕まえたんじゃないか」

 

「ガル強いから手錠も要らねんだな、てかアイツ尻見えてね!」

 

笑ってんじゃね-よ。

丸聞こえだよコイツら。

一人ずつ心臓握り潰したろうか。

 

だが笑い声響く中、振り返る勇気が俺には無かった。

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