雨実 和兎の小説創作奮闘ブログ

エッセイ・小説・詩・ポエム

65<噂>

65<噂>

エミリ達三人が街に来て、数日後。

 

レンガ運びの仕事が終わると、仕事仲間で一緒に飯を食って酒を呑むのが日課になっていた。

 

「マオー、お前も随分慣れてきたな」

 

「いやいや、ソイツはまだまだ新人だ」

 

宿屋の食堂に大きな笑い声が響く。

 

相手が全く遠慮の無い性格だからか、俺やエミリも打ち解けるのに時間は掛からなかった。

 

いまだに慣れないのはエミリの隣で寝る事と、身動き一つしただけで殺されそうなトウの視線だけだ。

 

「この現場終えたら、皆は次の現場に行くのか? 」

 

「ああ、何人かは出稼ぎだから地元に帰るけどな」

 

「仕事こそ少ないが俺の地元は景色の良い所だぞ、お前らも終わったら遊びに来い」

 

「行きたい、行きたい!」

 

「近いんですか? 」

 

はしゃぐエミリを横目に訊ねると、又トウが睨んでくる。

 

「近くはないな、獅獣王国の近くだからな」

 

「獅獣王国?」

 

「何だお前。隣国も知らないのか、獣人達が住む国だ」

 

俺とエミリが頷いていると、仲間の一人が心配そうに身を乗り出す。

 

「獅獣王国の近くって大丈夫なのか? 近頃怪しい噂ばかりだぞ」

 

「中間地の魔王が倒されたから戦争になるってやつか、この国にそんな戦力無いから大丈夫だろ」

 

「ところが何か新しい兵器を手に入れたって話しだぞ、最近牢屋に入ってた奴が見たって言ってたぞ」

 

「何を見たってんだ」

 

「毒ガスを使われて、身体中の皮膚が爛れた死刑囚の悲惨な姿だって。其の状態で囚われたままだから、夜中でも呻き声が聞こえてくるらしい。ソイツは其れ見て怖くなったから、マジメに生きるって改心したって言ってたぞ」

 

「……其の話し、本当だったらヤバすぎるな」

 

一緒に居た誰もが不安で口をつぐむ中、俺が考えていたのは中間地域と言っていた魔王城の事だった。

 

元は人間だったと魔王は言っていたが、もしかして隣国との戦争から守っていたのか。

 

理由は解らないが、有り得ないとも言い切れない。

 

長い間種族違いでの大きな争いが無く、其れが隣国なんて普通では考えられない。

 

俺がそんな事を考えていた時、ずっとトウが見ていた隣の席では。

 

「本当に冒険者を辞めるのか……」

 

「仕方ないだろ、スキルを奪われたんだから……」

 

「スキルを奪うなんて可能なのか、そんなスキル聞いた事も無いぞ……」

 

「襲ってきた黒髪のソイツが自慢気に言ってたんだよ、で実際にスキル使えなくなったんだからどうしようもないだろ……」

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