雨実 和兎の小説創作奮闘ブログ

エッセイ・小説・詩・ポエム

78<月明かり>

   78<月明かり>


洞穴内に入ると同時に、頭に機械的な声が響く。
キラーアントもどきを倒し、LV15に上がりました。

予想はしていたが、やはり魔物が隠れていやがったか。

こうなると前回の洞穴もウスロスの罠だった可能性が有るが、問い詰めても笑われるだけだろう。

迷宮だと思っていた前回の洞穴と同じなら、今回も中は迷路という事になる。

トウの炎を明かり替わりに洞穴を進んで行くと、広場に差し掛かり。

広場内では麻痺して動けないキラーアントもどき達が、所狭しと倒れていた。

壁伝いに次の通路を探すと、案の定通路は複数。

奥へと繋がる三本の通路を前に、俺達は立ち止まりエミリが訊ねる。

「……マオーさんどうしましょう?」

洞穴内の魔物は倒れているから進むのは問題無いが、他に罠が無いとは限らない。

其れに領主が魔王城を攻める噂が有るので、時間の余裕は無い。

「考えが有る、一旦入り口迄戻ろう」

エミリは不思議そうな顔をしていたが、其の気持ち解らないでもない。

殆んど使ってないから、自分ですら忘れてしまっていた。

ジャイアントモォールを倒して得た<土魔爪>だ。

「少し待ってて」

入り口に戻ると洞穴の前に立つエミリに一言伝え、土魔爪で掘り始め。

待っている間、エミリはクーガーと戯れていた。

夜に冷やされた土を、ひたすら掘りながら思う。

思い返せば俺と出会ってからのエミリは、恐い思いしかしていない気がする。

其れでも、一緒に居てくれるのは何故だろう。

住み処だけの問題なら、街でも働けば不可能ではない。

今クーガーと戯れている様に、楽しんでくれているなら良いのだが。

幾ら考えても、其れはエミリにしか解らない。


数十分後。
門の下を潜り抜ける洞穴を掘り終えた俺は、エミリを呼び寄せる。

「大丈夫、もう通れるよ」

少し待っていると、潜り抜けて来たエミリが恐る恐る顔を出し歓声を上げる。

「最初から、こうすれば良かったな」

一仕事終え誇らし気に言うと、何故かエミリは笑っている。

「魔王様なのに。顔中、土だらけですよ」

エミリは触れる事の出来ない手で、俺の顔に付いた土を払い笑う。

触れそうな位に近い、エミリの顔に心音が高鳴る。

けっして、何故か睨むトウの鋭い視線のせいではない。

「なんちゃってだからかな……」
照れ隠しに、そう返すのが精一杯だった。

君の笑顔をもっと視ていたい。

この気持ちが好きだという事なら、月明かりに感謝したい。

彼女の表情が見えて、紅潮する自分を隠してくれている。

そんな月明かりに。

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