雨実 和兎の小説創作奮闘ブログ

エッセイ・小説・詩・ポエム

59<バカンス野郎>

59<バカンス野郎>

速ぇ。とにかく速ぇ~。

モフモフどころか、乗り心地すら気にする余裕も無ぇ。

とんでもないじゃじゃ馬だ。

 

走る二匹のクーガーは、まるで制してみよと云わんばかりの勢いで安全なんて皆無。

 

近くに集まって居たクーガー達も、とっくに見えやしないし。

 

勿論、コントロールなんて絶対出来っこない。

 

必死に掴まってはいるが、何処まで行けば止まるんだ。

 

そんな事を考えていると、談笑するエミリ達の姿が見えてきた。

 

どうやら、いつの間にか辺りを一周していたらしい。

 

指示した訳ではないがクーガーはエミリ達の近くで止まり、顔を上げて俺を見つめている

 

やっと降りれたと安心する様な俺を、認めてくれたという事なのか?。

 

試しに頭を撫でてみると、さっき狂った様で走っていたのが嘘の様におとなしい。

 

隣に居るルドエルのクーガーも、同じように落ち着いている。

 

やれやれだ。

命懸けだったが、なんとか面目は保てたらしい。

 

「これで揃ったね、アンタ達そろそろ行くよ」

 

寛ぐ間も無く、ルミニーが出発を告げる。

 

もう一度乗るのかと思うと憂鬱だが、あの速度だと躊躇ったら置いてきぼり確実だろう。

 

それなりの覚悟をして飛び乗ると、走り出したクーガー達は軽やかに駈けて行く。

 

だが速いのは間違いないが恐怖を感じる様な走りではなく、心地好い走りだった。

 

変わりゆく景色と、通り抜ける風が解放感へと誘う。

 

まるで子供の頃に初めて乗った自転車の様に、何処までも行ける気がする。

 

とはいえ解放感を感じているのは俺だけじゃなく、さっき迄一緒に走っていたルドエルも同じらしい。

 

この野郎。

ずっと楽し気に、エミリと喋りながら並走してやがる。

 

女性二人も居るんだし、ガルのメンバー同士で並走すれば良いものをバカンス野郎め。

 

一応右側は空いているが、右肩にトウが乗っているから話し掛けにくい。

 

そんな事を考えながら後ろを走っていると、下がって来たルドエルが隣に並び囁く。

 

「エミリの隣を賭けて勝負するか?」

 

なんて嫌な野郎だ。

そんなに睨んだつもりは無いが、コイツ気付いてやがったのか。

 

「どうやって勝負するんだ」

 

「単純なチキンレースさ。クーガーは前傾姿勢で乗ると速度を上げるから、先にびびって速度を落とした方が負け。解りやすいだろ」

 

「開始の合図は?」

 

「ルミニーに号令してもらうさ」

 

俺達のやり取りを怪訝そうに見ていたルミニーが、ルドエルに聞く。

 

「アンタ何を始める気だい?」

 

「少し試してやるのさ……」

 

「アンタも馬鹿だね。放っときゃ良いものを……、これだから男は駄目なんだよ」

 

呆れた様子でルミニーは、リジョンと顔を見合わせる。

 

聞き捨てならね-。

何が試してやるだ、絶対に負かしてやる。

 

こうして俺は再び、命懸けの戦いに挑むのであった。

 

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