68<死因>
68<死因>
この頃医療に興味が在ると言って家族を欺いていたセトは、親に連れ出される事も減り。
増えた自由な時間とお金を、実験的な事にあてていた。
勿論。其の実験は医療的な意味なんて求めてはいなく、只の虐殺である。
つじつまの合う言い訳が、医療だっただけなのだ。
小さなネズミと違い、表情の解る猫や犬はよりセトを楽しませた。
後ずさり怯える表情が、自分を特別に感じさせる。
相手の命を握っている、絶対的な存在だと。
其れと同時に、毒殺の方法も変わっていく。
切りつけた傷口に塗り込んだり、歯に無理矢理塗り込んだりと強制的な方法に。
其れも一つの毒では飽き足りず、複数の毒を使って。
だがネズミ駆除剤や殺虫剤等の簡単に購入出来る物だけで、狂気は終わらない。
この日仕入れようとした毒はテトロドトキシン、所謂フグ毒である。
数日前から海岸をうろつき、手に入れる事を狙っていた毒だ。
釣ったのがフグだと確認した上で、釣りをしていたオジサンに話し掛ける。
「釣れてますか。あれっフグ可愛い、飼ってみたいな~」
バケツを覗き込み、白々しく笑い掛け譲って貰ったのだった。
次に準備したのは、美味い餌で誘き寄せた野良犬。
一度餌をあげて付いてくれば、殺す予定地の河原で首輪をする。
そうやって捕まえた動物達は全て殺してしまったので、河原の隅には何十の動物達が埋まっているのだった。
川原には当然人なんて来ないドブ川で、元より異臭が漂っている。
普通の人なら避けるような場所だが、セトにとって都合の良い場所だった。
この日も騙されているとは知らず、付いて来たのは人懐っこい柴犬。
其れなりにサイズは大きいが、セトにとっては殺害対象でしかなく。
いつものように、殺す手順に変わりはない。
先ずは仲良さ気に撫でながら、首輪を取り付け。
ゴム手袋をしてナイフでフグの解体、取り出した一番毒の強い肝を握り潰し手袋に馴染ませる。
セトを見上げる柴犬は、まだ何が起きているのか理解していない。
セトは再び餌をあげながら、手袋の毒を柴犬の牙に塗り込む。
今までは毒の効果で異変に気付いた生き物が、表情を変えながら死んでいくのだったが。
今日の柴犬は違って、牙に毒を塗り込んだ瞬間噛み付いたのだ。
よほど不快な塗り方だったのか、気に入らない味なのかは解らない。
だが結果的に、2グラム体内に取り込むと死ぬ毒が射し込まれたのである。
「このバカ犬~!テトロドトキシンは、末梢神経に作用する神経毒なんだよ。 本当バカだな~」
柴犬を突き放したセトは毒の効果を説明しながら、柴犬を罵る。
優しい人では無いと判断した柴犬は、唸り声を上げセトを睨み上げる。
だが互いに毒の効果が出るのは時間の問題で、いつまでも睨み合う余裕も無い。
次第に麻痺が始まり立ってられなくなった両者は、呼吸困難で命を落とす。
こうしてセトは家族に疑惑の死因を残し、異世界転移するのだった。