雨実 和兎の小説創作奮闘ブログ

エッセイ・小説・詩・ポエム

51<呼び掛け>

51<呼び掛け>

目が覚めたら洞穴の中だった。

だが山の様に在った蟻の遺体が無いし、洞穴内も少し景色が違う。

 

確かエミリを庇って、胸を貫かれたから死んだと思ったが。

 

もう紅い蟻が居ないのはガオンが倒して、魔法とか回復薬で俺を助けて移動したという事だろうか。

 

「大丈夫ですか魔王様」

 

恭しく訊ねるゴブリンに「大したことはない」と魔王らしく答えるが、擬態が解けて人間の身体?人間の身体じゃねーか。

 

ヤバい。ガオンも居るから、場合に依ってはもう一度殺されるかもしれない。

 

止まらない冷や汗を拭う余裕も無く、一行の鋭い視線が刺さる。

 

「……実は」

 

 

擬態のLvが上がり、魔王の頼みで成り代わっていた事や。

 

魔王自体は完全に消滅した訳ではなく、呪いで魂に取り付いている事。

 

ひととおりの説明を終えて騙していた事を謝ると、そんな事はどうでも良いと言わんばかりに一行が聞いてくる。

 

「で、どうやったら魔王様は出て来るんだ?」

 

どうゆうこと?人間と解った俺への扱い酷くねーか。

 

エミリさえも同じように聞いている側なのが、更に心を抉る。

 

俺の恋は終わっていたのだろうか、魔王の咬ませ犬として。

 

そんな事を考えているとガオンが床を叩き、再び問い詰める。

 

「で、どうなんだ?」

 

「いつもは頭の中で話し掛けてくるけど、今は話し掛けてこないから解らないな……」

 

「……」

 

一様に一行は落胆の表情を浮かべ、溜め息を吐く。

 

皆が落ち込む理由はエミリがそっと教えてくれた。

 

やはり優しい、好きだ。

イヤ、今はそんな事を考えている場合ではない。

 

要は閉じ込められてしまったという事だが、ガオンが塞いだ道ならどうだろうか。

 

時間を掛ければ通れるように出来そうだが、まだキラーアントは居るかも知れない。

 

其れに主力のガオンが紅い蟻との戦闘で、かなり疲労している。

 

他に出口が無いとなると確かに、こんな雰囲気になってしまうか。

 

試しに頭の中で魔王に話し掛けてみるが、返事は無い。

 

俺が死んだ時に魔王が出てきて紅い蟻を倒したって言ってたから、何か力を使いきってしまったのか。

 

出口が塞がっているなら、酸素も何時まで在るか解らない。

 

とにかく呼び掛けるしかない。

オイ、頼むから出て来てくれ。

 

 

「……チカラが欲しいなら我がくれてやろう」

アニメとかだったらそんな事を言って、出て来るパターンだろ。

 

 

そんな心の叫び虚しく洞穴は静かなままで、全く何も起きる気配すら無い。

 

望んでない時には話し掛けてきやがるのに、こういう時にダンマリかよ。

 

まいったな……。

この異世界に来てから本当に録な事が無い。

 

もう一回死ぬのを試す訳にもいかないし、ウスロスが助けに来るなんて有り得ないだろう。

 

諦め。皆と同じように座り壁にもたれていると、静寂を破り何やら回転音のような大きな音が近付いて来ていた。

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